肩関節に対する評価 −拘縮肩にできることは−
肩関節の拘縮は肩関節周囲炎や腱板損傷など様々な疾患から生じうる病態です
元々の病態(疾患)、特に肩関節周囲炎が自然治癒しても長年にわたり硬さを放置したことによって、代償動作が身についてしまい、時間の経過に伴って拘縮が固定されて、状態が悪化してしまっている患者さんを臨床ではよく見かけます
肩関節における拘縮とは?
・肩関節周囲炎に伴う腱移行部、滑膜、関節包、靭帯などの炎症や損傷によって関節周囲の軟部組織が原因となる
・関節の固定や不動によって、局所的循環障害や関節内圧上昇、浮腫うっ血に伴う線維性強直によって引き起こされる
【解剖学的知識から考えられる例として】
腱板疎部や肩峰下滑液包、烏口肩峰靭帯には疼痛受容器が多く存在しており張力や圧刺激によって、運動時・夜間時痛が引き起こされる
肩関節の周囲筋に筋攣縮を生じさせるため、筋の短縮や最終的には関節拘縮へと進行していく
腱板疎部:薄い膜状組織であり、腱板の抵抗減弱や緊張や歪みを緩衝する
肩峰下滑液包:棘上筋の滑動を保障する
肩甲下滑液包:摩擦を減弱する油圧機構、関節内圧の上昇
疼痛時期の分類
急性期: 発症直後〜約2週間
安静時・夜間痛、運動時痛 ⇨ 関節可動域制限の始まり
拘縮期: 約2週間〜6ヶ月
疼痛は減弱していく、関節可動域の制限が悪化
⇨ 日常生活に不自由さを感じ始める
回復期: 約6ヶ月〜1年
⇨ 運動時痛や関節可動域制限が改善してくる
☝️徒手療法によるリハビリ介入では拘縮期・回復期に対して除痛効果が期待できる
結滞動作と制限
いわゆる手を腰背部へまわす動作
一般的には、肩甲上腕関節の伸展・内旋、肩甲胸郭関節の前傾・下方回旋を要する
日常生活ではズボンの上げ下げや下着の着脱などの動き
必要な関節可動域
すでにいくつかの研究報告がある
肩甲上腕関節では内旋45°、伸展12°、外転5°が必要
肩甲胸郭関節では前傾17°、下方回旋8〜10°が必要
しかし、結滞動作のパターンには肩関節を外転させるだけでなく内転させるパターンもあり
内転パターンでは
肩甲上腕関節は内旋と伸展、内転が必要
肩甲胸郭関節では挙上・内転・前傾・上方回旋に加え、より上位の結滞動作では下方回旋も必要
外転パターンでは
肩甲上腕関節は内旋と伸展、外転が必要
肩甲胸郭関節では挙上、内転、前傾、上方回旋
結滞動作では肩甲上腕関節の内旋と伸展の動きは必要不可欠
内旋制限では後上方組織
、伸展制限では前上方組織
の影響が強く
特に後上方組織、その中でも棘下筋の横走線維、後方関節方による2nd内旋制限が大きく関与
棘下筋の横走線維は棘上筋と停止部で隣接するため棘上筋の機能低下の影響を受けやすいとされています
結髪動作と制限
手を後頭部へまわす動作
肩甲上腕関節の外転・外旋、肩甲胸郭関節の上方回旋を要する
日常生活では洗髪や髪を結んだり、櫛でとかす、ドライヤーで乾かす時などの動き
結髪動作時の外転制限に対して屈曲運動で代償していることが多い
結髪動作にも外転パターンと屈曲パターンがある
必要な関節可動域(肘関節、手関節は除く)
外転パターン:外旋50°、外転110°
⇨ 外転に伴う肩甲骨の上方回旋が必須
屈曲パターン:外旋20°、屈曲130°
⇨ 肩甲骨の上方回旋はわずかでも可能
結滞動作では肩甲上腕関節の外旋と外転or/and屈曲の動きは必要不可欠
外旋制限では前上方組織
、外転or/and屈曲制限では後下方組織
の影響が強い
紹介した動きに関しては臨床での評価・治療時のポイントのひとつです
肩関節は複合関節であり、自由度が高いため様々な動かし方や代償動作があります
代償動作といっても仕事や年齢、病態を考慮しかえって修正しない方がいい場合もあります
そのため、目の前の患者さんに対して、個々に判断し対応していくことが重要です
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