臨床で耳にすることの多い“仙腸関節機能障害”の基本的知識

臨床で耳にすることの多い“仙腸関節機能障害”の基本的知識

仙腸関節の基礎知識

仙腸関節は仙骨の耳状面と腸骨の耳状面からなる平面関節であり、繊維性の靭帯によって補強されているため、可動範囲はごくわずかとなっています

仙腸関節の位置はS1〜S3の高さにあり、平面関節といっても3°以下の回旋運動並進運動も生じる複合的な運動が行われる関節です

関節区域は前方の1/3程度であり、残りの後方の2/3は靭帯区域となっています

可動域は少くないですが、複合的な動きを生み出すことができ、かつ、区域の広い靭帯によって、大きな荷重負荷にも耐えることができる構造となっていると考えられています

仙腸関節に関わる靭帯

骨間仙腸靭帯、腸腰靭帯、仙棘靭帯、仙結節靭帯、前・後仙腸靭帯により連結されています

腸腰靭帯:L4・5の肋骨突起と腸骨稜内唇の後方との間

仙結節靭帯:仙骨、尾骨の外側縁および下後腸骨棘と坐骨結節との間

前仙腸靭帯:耳状面の前方で前下縁から前上縁との間

後仙腸靭帯:仙骨後面外側仙骨稜と下後腸骨棘との間

      仙骨下部外側縁と上後腸骨棘との間

仙棘靭帯:仙骨、尾骨の外側縁と坐骨棘との間

骨間仙腸靭帯:耳状面の後方で仙骨粗面と腸骨粗面の間

 仙腸関節の不安定性は、腸腰靭帯との関連性があると報告があります

仙腸関節の特徴的な症状

仙腸関節周辺の疼痛が主に生じ、鼠径部痛広範囲の下肢への関連痛が生じることが特徴です

鼠径部痛は他の腰部や臀部の疾患では出現しにくく、仙腸関節障害の特徴的な症状であると考えられています

下肢への関連痛が生じる場合は、腰部脊柱管狭窄症や腰椎すべり症などの他の腰部疾患との鑑別が重要であるとされていますが、他の疾患との合併率が約20%前後あるとの報告もあります

そのため、下肢への関連痛=仙腸関節障害と結びつけることはできず、しっかりと評価する必要があります

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仙腸関節障害に対する治療

仙腸関節に対する保存療法の有効性は70%以上あるという報告があり、運動療法を行った症例に対して約70%近くが運動療法を開始してから3ヶ月以内で症状が緩和しているという報告もあります

仙腸関節痛は後仙腸靭帯にブロック注射をすることで約90%に除痛効果が得られたと報告があり、仙腸関節痛との因果関係があると言われています

後仙腸靭帯に腰部多裂筋の一部が付着しており、仙腸関節の安定性に関与、また、仙腸関節痛へ影響を及ぼす因子として挙げられます。そのため、仙腸関節障害に対して運動療法を行ううえでは”腰部多裂筋”の存在は切り離せません

多裂筋の深層線維(一部が付着する関節包)には侵害受容器が多く存在しています

この侵害受容器は閾値が低いため、疼痛を拾いやすいです

多裂筋のスパズムは腰椎の動きを制限するだけでなく、仙腸関節の疼痛を生じさせている可能性も考えないといけません

多裂筋の機能解剖

腰部多裂筋は椎間関節を安定させる機能を持つだけでなく、腹横筋や横隔膜、骨盤底筋などと共同しながら胸腰筋膜を介して腹圧をコントロールする役割も担っています

腰部多裂筋の筋束は6つの線維に分けられるとされてます

筋長が長いものほど屈曲・側屈作用が強く短いものほど回旋作用が強いといわれています

筋線維の走行は

1.第1腰椎棘突起〜上後腸骨棘を結ぶ筋線維群

2.第2腰椎棘突起〜背側仙腸靱帯(上部)を結ぶ筋線維群

3.第3腰椎棘突起〜背側仙腸靱帯(下部)を結ぶ筋線維群

4.第4腰椎棘突起と仙骨下部外側を結ぶ筋線維群

5.第5腰椎棘突起〜左右の正中仙骨稜を結ぶ筋線維群

6.各棘突起〜2つ下位の椎間関節、乳様突起を結ぶ筋線維群

仙腸関節機能障害は仙腸関節自体に原因がある場合もありますが、隣接する胸腰椎の機能障害股関節の機能障害が関与してくる場合も臨床現場ではよくみかけます

仙腸関節へアプローチすることで、その場では症状が緩和するときもありますが、時間が経つと再燃してくる場合は、他関節との関係性を再度評価する必要があります

仙腸関節の評価を行うだけでなく、姿勢を含めた隣接関節の評価や行っておくことで原因を追求できてくると思います

疼痛部位のみに視点を向けるのではなく、広い視野を持っておくことが重要です